事件概要4:たたかいの意義2010/05/16 08:25

4.たたかいの意義

 地裁および高裁の判決によれば、「教職員としての適格性・協調性」の判断が大学経営者の大学運営の都合によって判断され、それによって解雇も自由にできる、ということになる。しかも本件では、事実への厳密な審査がなされずに一方的に大学経営者の言い分を採用して判決が下されている。このような不当解雇・不当判決が今後広がれば、国民の期待にそう民主教育をと、関係者がこれまで努力し築いてきた教育体系は根幹から破壊され、国民の(研究教育者の)教育権は根本から剥奪されてしまうことになりかねない。

 権利者への権利剥奪の攻撃は人格攻撃をもって始めるのが攻撃者の常套手段であるが、本件解雇理由の主張においては、衣川清子氏への人格攻撃が際だっている。現在、研究・教育現場は、多忙化・疲労の蓄積・協力関係の分断など進行している。教育体系破壊の動きも各地で進んでいる。その状況下において、大学民主化のための提言や研究・生活条件の改善要求は研究教育者としての当然の権利であり責務でもある。本件不当解雇・不当判決は、これらの行動を押し潰す恐ろしい武器となりかねない。大学の研究教育機能の健全な発展と、教育研究者が国民の期待にそって研究と教育に安心してたずさわることができるように、力を合わせなければならない。

事件概要3:控訴審(高裁)の判決と上告2010/05/16 08:22

3.控訴審(高裁)の判決と上告

 控訴審においては、衣川清子氏の人柄と仕事ぶりを証明する短大卒業生らの陳述書49通が提出された。また,解雇撤回を求める要請署名2000余筆が提出された。「連名書」が大学経営者の半ば強制的な指示によるものであることも証人をもって再度明らかにされた。しかし,民事14部房村精一裁判長はこれらを無視して,「教員としての適格性・協調性欠如と学生からの信頼は両立しうる」「『連名書』の自発性を疑うに足る証拠はない」として地裁判決を支持し,控訴を棄却した。衣川清子氏はただちに上告し、3月5日に上告理由書・上告受理申立理由書を提出した。現在、第1小法廷に係属中。

 衣川清子氏の不当解雇・不当判決撤回のための支援活動は急速に広がり、東京私大教連、首都圏大学非常勤講師組合、新英米文学会・世界文学会・日本科学者会議有志多数、短大卒業生らが、署名活動、カンパ活動など積極的におこなっている。

事件概要2:地裁での争点と判決および本係争事件の性格2010/05/16 08:21

2.地裁での争点と判決および本係争事件の性格

 2008年6月19日、東京地方裁判所に解雇無効を求める訴訟を起こした。裁判において大学経営者は、おもに次のことがらをもって同大学の教職員としての「適格性・協調性欠如」の根拠としている。

①大学経営者に対して「規程どおりの学内運営を」との要望・要請をあたかも誹謗,中傷であるかのように歪曲・捏造・誇張し、さらには、ゼミ生の履歴書回収において個人情報管理に配慮したことをも歪曲して、大学経営の非協力者として描きあげている。しかしこれは、研究教育者としての権利でもある学内正常化努力に対する敵視によるものと言わざるをえない。

②従来問題にされなかった茶菓を伴う学生たちとのミーティングなどを取り立てて歪曲・誇張し、非違行為に仕立て上げ、教職員としての適格性の欠如としている。しかし衣川清子氏の行為は、教育における創意性、情熱、学生への配慮を示すものであって、それを非違行為とする主張は研究教育者の自主性・教育権への露骨な敵視から発しているものと言わざるをえない。

③大学経営者は衣川清子氏の退任を求める同僚教員の「連名書」を提出し、「適格性・協調性欠如」の証拠としている。しかし「連名書」は、裁判の過程において、大学経営者の指示によるものであることが明らかになった。そもそも「連名書」自体が、大学運営の異常性、「規定通りの学内運営」への敵視を露骨に示している。

裁判において、衣川清子氏は解雇理由の不当性を事実にもとづいてすべて明らかにし、自らの行為の正当性を主張した(別表)。民事11部鈴木拓児裁判官はしかし、同氏の反論については事実関係を調査せずに、2009年7月6日、大学経営者の主張をほぼ全面的に認め、「原告の授業に特段問題がなく、学生からの信頼が厚いとしても」、「短大をめぐる状況が厳しい中、本件短大のような小規模短大において適格性・協調性に欠ける原告を解雇したことは解雇権濫用とまではいえない」として請求を棄却した。

 この種の係争事件においては本来、日本国憲法23条(学問の自由)および国際的にも確認されている研究・教育に関する普遍的価値観、つまり具体的には、社会進歩における研究と教育という使命と職責の重要性、およびにそれにもとづく研究教育者の身分保証の問題が議論の核心とならなければならない。しかし本件解雇理由とそれを認めた判決は小規模大学の経営都合に合わせ、上記事項を完全に無視したものとなっている。


別表 本文で事例記載を割愛したその他の主な解雇理由と反論概要

★大学経営者があげた解雇理由1
学長の紀要掲載論文を批判し、文部科学省に通報した。
☆解雇理由に対する事実に基づく反論1
学長の紀要掲載論文を批判し、文部科学省に通報した。
学長の論文について著作権法上の問題があり、精査の結果を公益通報として届け出た。その後、別の教員の疑惑も発覚し、論文執筆の際には著作権法に配慮するようにとの教職員研修会が開かれた。通報行為は研究教育者として当然の行為でありこれをもってしても正当化されている。

★大学経営者があげた解雇理由2
学長や他の教員の言動を記録し、それをもとに個人攻撃や執拗な中傷を行った。
☆解雇理由に対する事実に基づく反論2
非民主的な学内運営を危惧し、その改善のための正確な議論に資するために、前学長とその同調者の言動をメモしておいた。これらの行為は誰しもが通常おこなう行為であり、理事会も承知のうえのことである。それをもとにした「個人攻撃や執拗な中傷」は歪曲の類に属する。

★大学経営者があげた解雇理由3
曲解に基づいて「学報」回収を要求した。
☆解雇理由に対する事実に基づく反論3
「学報」掲載の学長記事は卒業生への配慮に欠けていると判断し、配布を見合わせるように担当部署に提案した。学長自身が「曲解」ではなく配慮不足であったことを証人尋問で証言している。

★大学経営者があげた解雇理由4
委員会活動への妨害・非協力
☆解雇理由に対する事実に基づく反論4
教務、学生、キャリアサポート、IT・メディア、入試の5常設委員会があり、当人は教務およびキャリアサポートに所属して職務を誠実に遂行してきた。任期は1年と定められており、規定により、任期満了後には他の3つのいずれかに任命されることを念頭において、現職辞任を申し出た。これをもって「妨害・非協力」とするのは誤解ないしは曲解である。ましてや解雇理由とするのは、事実の悪質なねつ造の類に属する。

★大学経営者があげた解雇理由5
就職相談室勤務の派遣社員の身分を学生に明かして仕事をしにくくさせた。
☆解雇理由に対する事実に基づく反論5
学生から、「お世話になった相談室の職員が卒業アルバムに載っていないのはなぜか」との質問をうけて答えた。他に答えようがない。(派遣社員問題がこれだけ大きな社会的問題になっており、「仕事をしにくくさせ」ているというのなら、責任はむしろ大学経営者にあると考えている。)

★大学経営者があげた解雇理由6
「研究紀要」論文に関して誤った権利主張をした。
☆解雇理由に対する事実に基づく反論6
「研究紀要」から自分の論文が削除されそうになったので、削除に反対し、削除の理由をただした(結局削除された)。論文執筆・掲載は研究教育者生命にかかわる重大問題であり、当然の権利主張である。この点、地裁は「誤った権利主張ではない」と認定している。

事件概要1:解雇までの経緯2010/05/16 08:19

1.解雇までの経緯

埼玉女子短期大学は、学校法人川口学園が1989年4月に埼玉県狭山市に設置した私立短期大学で、1999年に日高市に移転した。定員は2学科(商学科と国際コミュニケーション学科)計600人であるが、2009年5月現在の在学生は850名、専任教員数約20名である。教職員組合はない。

衣川清子氏は同短期大学の開学と同時に専任講師として採用され、1993年に助教授に昇任し、一貫して研究・教育・学内運営に携わってきたが、入職20年目の2008年4月14日、突然普通解雇された。解雇理由として同短期大学の教職員としての「適格性・協調性欠如」をあげている。